『浸漬式のドリッパーでHARIOとCleverって実際どっちがいいの?』
最近よく聞かれる質問のひとつ。これまではClever(クレバー)一択だったが、今年春頃にHARIO(ハリオ)から同じく浸漬式のスイッチが発売となったことで比較対象に。
今回は浸漬式ドリッパー愛用者でもある暁屋Coffeeより、プロ目線での両製品を比較をしてみよう。
HARIO (ハリオ) 浸漬式 ドリッパー スイッチ
HARIO(ハリオ)公式HP
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HARIO浸漬式ドリッパースイッチについて
仕組みは以前レビュー紹介したクレバードリッパーとほぼ同じ。HARIO V60でおなじみの透過させて落とす抽出と異なり、お湯に浸して数分待ってから抽出をする器具。
Clever Coffee Dripperについてコーヒードリッパーに求める機能とは何だろうかと有名なバリスタに聞いてみた。"美味しく抽出できること"は当然だが、同じくらい大事なことに"いつも安定した味を抽出できる(ブレが少ない)こと"[…]
間違いなくクレバーの仕組みを参考にした製品であるが、浸漬法で抽出する器具を作ろうと思えば大抵同じ構造(排出部に弁を付ける)になるはずだから、似ていて当然。
コーヒー豆の産地や収穫法による個性(キャラクター)や、品質がより鮮明に表れやすい浸漬法は近年のスペシャルティコーヒー市場と非常に相性が良い抽出法。
HARIOスイッチの特徴をまとめると以下のとおり
- フィルターコーヒーよりも豆の特徴をしっかり抽出
- 油分や雑味をペーパーにより除去
- 再現性が高く毎回安定した抽出が可能
- 忙しい朝などお湯に浸している待ち時間に他の作業ができる
- スイッチ機能が秀逸
浸漬法と透過法の違いについて
HARIOスイッチやクレバーは下記に示したフレンチプレスとペーパーフィルタードリップの両者による抽出利点を享受し、それぞれの欠点を解消したハイブリッド器具と言える。
・フレンチプレス(浸漬法)
粉と湯の浸漬時間をコントロールすることが可能。豆と湯の触れる時間が長いためコーヒー豆が持つ特徴をしっかり抽出できる。その反面、油分まで多く抽出してしまうため、雑味も出やすく鮮度の良い豆を選ぶことが重要。また僅かではあるが、粉がプレス網をすり抜けるため飲み口は粉っぽくなる。また、掃除は比較的面倒だ。
・フィルタードリップ(透過法)
最も一般的なペーパーフィルターでは、紙で濾過するため粉っぽさは無いが、粉と湯の接触時間が短いためかなりクリーンな味わいに。浸漬時間は無く、透過させる時間をドリップテクニックにより制御する。そのため安定した抽出は難しい。
ハリオV60のガラスドリッパー
コーヒー好きなら誰しもが知っているであろうHARIOのV60ガラスドリッパー。美しく洗練されたスパイラルリブのデザイン。
このドリッパーで浸漬式抽出できるというだけでもHARIOを選択する人は多いのではないだろうか。
浸漬させてしまうので、実際にはこのリブ形状である必要性は無いけどデザイン重視ってことで
サイズは1-4杯用が採用されており、もちろん通常の透過法としての使用も可能となっているのは嬉しい。
※浸漬式として使用する際は1-2杯用
抽出切り替えスイッチ
シリコンゴムのホルダーにプラスチック製のスイッチ、中心にステンレス玉。スイッチを押すとパチンコ玉を下から突き上げて、隙間が生じて排出される仕組み。
このプラスチック部が、だいぶチープな感じなのが気になる…。
実際に淹れてみた
ドリッパーとサーバーを温める
コーヒー豆を中細挽きにグラインド
コーヒー豆 15g(挽目 中細挽き)
抽出量 225〜230cc
湯温 90〜93℃
浸漬時間 4分〜6分
あくまでも目安であるが、焙煎の上手なお店のコーヒー豆であれば、長時間浸漬しても雑味は出ない。HARIOの取扱説明書の2分では短すぎて浸漬の良さが発揮できない。
4分〜6分ほど浸漬できると、旨味を十分に溶け込んだ浸漬法ならではのコーヒーを愉しめる。
焙煎度や挽き具合によって異なるベストな時間を探してみよう
湯を投入
透過法のドリップのような蒸らしは不要。撹拌させるように一気に必要湯量を投下する。
投入時の撹拌が不足していれば、スプーン等で優しく撹拌。また1〜2分後に粉が浮いてくので、上澄みをかき混ぜてあげるとよい。
4〜6分経過後
スイッチを押さなければ、この状態でも一切漏れてこない。時間が経過したら、シリコンゴム部分をしっかりと握ってサーバーへのせてスイッチをONすれば抽出完了。
スパイラルリブの影響で、クレバーと比較すると落ちる速度が早い。
クレバー(Clever)との比較
HARIOスイッチが発表された際に、まず感じたのが『温度』についてである。
クレバーやフレンチプレスにみられる浸漬法は、数分間の浸漬時間があるためコーヒーの温度が冷めやすいのがデメリット。クレバーでは蓋の使用は必須となるが、HARIOスイッチにはそれが無い。
結論を言うとこれはHARIOスイッチのミステイクだろう。コーヒーを扱うプロであれば、冷めたコーヒーはもとより、顧客のマウスに運ぶまでの大きな温度変化は避けたいところ。デザイン性との兼ね合いもあったのかもしれないが、蓋をつけていないのは非常に残念。
Clever(クレバー)の洗練された使い心地
HARIOスイッチの円錐形のペーパーフィルターよりも、クレバーに用いられる台形型の方が、湯と粉が接しやすく重なりが少ない(撹拌もされやすい)。
この蓋があるのと無いのとでは、抽出後の美味しさには少なくない差が生じる。
慣れもあるだろうが、スイッチON/OFFよりも、サーバーやコップに置くだけの手軽さはあらためて素晴らしいなと思ってしまう。
抽出後の温度について
【クレバードリッパーS】
投入時湯温 93℃
浸漬時間 4分半
抽出後温度 70.8℃
【HARIOスイッチ(蓋なし)】
投入時湯温 93℃
浸漬時間 4分半
抽出後温度 57.3℃
室内温度などで結果は多少異なるだろうが、その差は歴然。
HARIOが取説で浸漬時間を2分程度としているのは温度低下が激しいためだろう。抽出温度を低下させないために浸漬時間を短くするのは、この抽出法の最大の利点を放棄しているのと同じこと。
改善策
【HARIOスイッチ(蓋あり)】
浸漬時間 4分半
抽出後温度 66.9℃
クレバーのコースターで蓋をして抽出したところ、蓋なしと比較して抽出後温度が約+10℃ほど上昇。これで抽出前後の温度差を抑えて、コーヒーの味への影響も少なくできる。
【追記:2019.10.20】
保温性の高いサーバーを使う
この記事をみてくださったRED POISON COFFEE ROASTERSの森藤オーナーより貴重なアドバイスを頂けた。レッドポイズンではクレバー抽出の際、一般的なガラスサーバーでは無く真空断熱二重構造のステンレス製コーヒーサーバーを使用。
このHARIO社のV60保温ステンレスサーバーは熱の流出が高いレベルで抑えられるとのこと。RED POISON COFFEEでは浸漬時間を長めにとる浅煎り豆ではクレバーに蓋をして抽出するが、それ以外では熱くなりすぎないように蓋を外した状態で抽出をしているとのこと。
焙煎度合い(レシピ)に応じて蓋の有/無で抽出後の温度調節までしているのは驚いた。これがプロの仕事だね。
温度低下を抑えるためにHARIOスイッチに同じHARIO社の真空断熱二重構造のステンレス製コーヒーサーバーを用いるのも有効な改善策となろう。
- 真空断熱二重構造のステンレス製サーバー click
まとめ
冒頭の質問に対する答えだが、味と扱い易さを重視するならばクレバーに軍配が上がるだろう。クレバーが長年にわたり、浸漬式ドリッパー市場で勝ち続けている理由を改めて理解できた。
デザイン性はどうだろうか?シリコン部分のサイズ、プラスチック部品など、もう少し美しく作れたように思うが、HARIOスイッチを好む人が多そうだ。
先日Cleverを開発した台湾のhandy brew社の方とお話する機会があった。その際に2つほど質問をしてみた。こんなに素晴らしい器具だが、なぜ日本ではバリエーションが少ないのか?安価なのは結構だが高価格でもう少し洗練されたモデルなどは作らないのか?
回答として「カラーバリエーションはオーダーで応えられるが最小受注ロットが大きいため、ベーシックカラーしか出回らない。Newモデルも作っているが、当初モデルの人気を取って代わるものには育っていない」とのことであった。
デビューシングルが大ヒットした後、その実績を超えられずに苛まれている歌手みたいな感じかな。まあクレバーひとつで食べていけるだろうし
ハンドドリップほどのテクニックは不要で、美味しい豆さえ用意すれば誰にでも簡単にプロの味を再現できる。浸漬式のドリッパー市場はまだまだ成長できると思う。今後さらに器具が改良・開発されて、Coffeeloversを愉しませてくれることを期待したい。
HARIO (ハリオ) 浸漬式 ドリッパー スイッチ
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CLEVER クレバー コーヒードリッパーS
handy brew 社公式HP
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美味しいClever抽出のCoffeeが飲める店
僕の知る限りでは日本一(たぶん世界一)クレバーを使いこなしているお店。5分以上の浸漬をしても全く雑味ひとつ無いどころか、甘みを感じる抽出。
その味を可能にするのは類まれなる焙煎技術。浸漬法の抽出が好きな方は必見の店。
通販送料が全国一律172円ってのが嬉しい。一流店のバリスタ達も注目する焙煎技術はコーヒー好きなら一度は飲んでおきたい。
Clever Coffee Dripperについてコーヒードリッパーに求める機能とは何だろうかと有名なバリスタに聞いてみた。"美味しく抽出できること"は当然だが、同じくらい大事なことに"いつも安定した味を抽出できる(ブレが少ない)こと"[…]