結論からいうと
“あえて熟成(エイジング)させる必要は無い”であった。
180日間熟成で良くなった点と悪くなった点をまとめると以下のような結果となった。
焙煎豆 熟成の良い点
- 特徴が薄くなった分、まるくなり飲みやすい
- コーヒーにとろみが出る
焙煎豆 熟成の悪い点
- 生命線でもあるフレーバーがすごく弱い
- 味がスカスカ(産地や焙煎度が分からなくなるほど特徴がない)
- 僅かだがゴム臭のような油分が傷んだ臭みが出る
コーヒーは嗜好品なので、感じ方も好みも人それぞれ。エイジング派の人からするとこの熟成具合のテイストが堪らなく美味しいという人もいるのかもしれない。
しかし、一個人の意見としては、わざわざ冷凍庫を数ヶ月間にわたり保存容器が陣取って得られる成果としては余りにも虚しい。
劣化とは言わないが、昨今のコーヒー栽培技術や精製技術向上により産地の特徴ある豊かな香味が楽しめる時代になった。僕は純粋にそのフレーバーやキャラクターを愉しみたい。
熟成=エイジングとは
熟成とは広辞苑によると
«物質を適当の温度に長時間放置して科学変化を行わせる»
«動物体のタンパク質・脂肪・グリコーゲンなどが酵素や微生物の作用により腐敗することなく適度に分解され、特殊な香味を発すること»
だという。
近年人気の熟成肉(エイジドビーフ)は低温の特殊環境下で熟成させることで、肉に含まれる酵素の働きなどでタンパク質が分解されて旨味成分であるアミノ酸が増加するとともに肉が柔らかく変化するもの。
一方ワインの場合はタンニンや有機酸、アルコールを主とする熟成により酸化&結合し旨味をもたらすといったところ。チーズであれば発酵。つまりカビや乳酸菌、酵素によるタンパク質の分解が熟成要件だ。
コーヒー豆における熟成(エイジング)とは何か
そもそもコーヒー豆のエイジングは“焙煎前”と“焙煎後”に分けられる。焙煎前の生豆の状態においては以下の4パターン。エイジング=古くなる という意味ではカレントクロップもパストクロップも該当するが、熟成という考え方でいくと④のオールドクロップのことを熟成豆と考えることが多い。3年物のオールドクロップや5年物のオールドクロップといった具合だろう。
①ニュークロップ(収穫したて)
②カレントクロップ(既流通の当年度産の生豆)
③パストクロップ(前年度産)
④オールドクロップ(パストよりも古い豆)
続いて今回の本題でもある焙煎後の熟成は一般的に焙煎後、低温により2週間−6ヶ月程度熟成させることをいう。
大事なのは熟成と言われるその期間に焙煎豆に起きる科学反応(アミノ酸の生成や発酵、各種成分の結合など)はエイジング・ビーフや熟成ワインなど比較して極めて少ないこと。焙煎後に発生した二酸化炭素や油分が抜けることと、焙煎後の豆に残存する微量の水分の酸化くらいだろう。
その効果については他の熟成品や発酵食品ような明確な根拠と理論は無いようだ。研究が進んでいる分野でないので下手な事は言えないが、理論的に旨味成分が大幅に増加する理屈は無さそうだ。
終わりに
今回、焙煎後180日間の熟成豆を実際に飲んで結論付けたことは、熟成(エイジング)とは酸化や結合、発酵などの科学変化により時間をかけて旨味成分を引き出すことが目的であるがコーヒー豆については準用できないということ。
しかし一方で別の考えも生まれた。非常に優れた焙煎技術を持つ焙煎士や味覚に優れた人が、コーヒー豆の熟成期間と香味に与える変化を理解した上でエイジングを行った場合だ。
追記:意図的に熟成期間を1ヶ月としたもので、フレーバーが増し、甘みを強くさせている豆を飲んだ。熟成期間2ヶ月以降は全体的な美味しさは下降したが、明らかに焙煎後1週間よりも2週間以上〜1ヶ月間では美味しさが勝っていた。
熟成は一見すると豆の個性を損なうマイナスポイントが目立つが、敢えて削ぎ落としたい特徴を熟成を利用して丸みを帯びさせつつ整えることは可能では無いだろうか。まるでブレンドをするかのように。
追記:この表現も一部に誤りがある。熟成=削ぎ落とし=円やかさのみと考えていたが、焙煎コントロールによっては焙煎後の2−4週間ほどにフレーバーの最も強い開きをもってくるなどということができるそうだ。熟成期間180日間で美味しくなる熟成豆とは未だに出会っていないが、熟成期間ごとに飲んでみて、一ヶ月ほどまで香りが増す体験ができた。
いずれにせよコーヒーは愉しむもの。他人から決めつけられるものではなく、自身にあったコーヒーを探し、感動できるのであればそれが答えなんだろう。百聞は一見にしかず。あなたのCoffeeLifeを豊かにするかもしれないコーヒー豆の熟成を是非試して欲しい。
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